灯火の先に 第18話


息を殺し様子を伺っていると、見た事のある男達が、見知らぬ男達を引き連れて駆けていく姿を何度も見かけた。先導しているのは、シンジュクゲットーを拠点としてた頃からいる黒の騎士団の団員。その後ろにいるのはそれ以降に入った者か、あるいは警察関係者か。どちらにせよ、カグヤの手の者ということだ。
迷うことなく移動する彼らは、間違いなくゼロを探しており、いくつかあるアジトといくつもある逃走ルートを調べていることは明白だった。嘗てビルだった廃屋一つ一つ調べてはいないため、身を隠しながらの移動はまだ可能だったが、それでも見つかるのは時間の問題だった。

「この様子だと、アジトは押さえられているか」

こんな事なら、新宿に入ったフリをして別の場所へ向かうべきだったと思うが後の祭りだ。まさかカグヤがこんなに考えなしの行動を取るとは思わなかったのだから。もっと思慮深い人物だと思っていたが甘かったか。暗殺の心配は当然しているだろうが、自分が送った者達の中にそれがいる可能性は一切考えていないのだろう。
このまま新宿内を逃げまわるのは危険過ぎるし、時間が経てば発つほど逃げ道は塞がれる。盲目のスザクの手を引き、逃げきれる方法を考えなくては。スザクは確かに闘うだけの力を取り戻しつつはあるが、ここを突破できるものではない。
接近戦ならそれなりに戦えても、相手は飛び道具も使う。
その時点でゲームオーバーだ。
C.C.はちらりとスザクを見た。
目が見えない中走り回り、そして周りは敵に囲まれている。
スザクは守る側の人間で、守られる側ではない。
それなのに女性に守られ、逃げているこの状況はストレスでしかない。
流石にこの状況で鬱ぎ込むことは無いが、なぜ見えないんだ、この目が見えていればと、その顔は苛立ちと焦りで歪んでいた。もし彼らが探しているのがゼロではなく、枢木スザクだったなら、間違いなく名乗りを上げ彼らに捕縛される道を選んだだろう。
たとえ、その先に待っているのが処刑だったとしても。
だが、今彼らが探しているのはゼロだ。
ゼロの正体は知られてはいけない。
もし知られれば。
ゼロレクイエムのからくりに気づかれてしまえば。
ルルーシュの残した奇跡が消えてしまう。
だから、死にたがりやのスザクは、ゼロとして黙って二人に付いて来るしかなかった。
スザクの目が見えるなら、この程度の包囲網を抜けるのは簡単だが、目が見えていればそもそもこんな事にはなっていないか。

「地下へ潜りましょう」
「地下?あそこにアジトなどあったか?」

地下、それは地下鉄跡地を指している。各地で再開発は行われているが、新宿は地上部分でさえこれなのだから、地下はあの頃のまま放置されていると考えられた。

「逃走ルートがいくつか用意されています」
「確かに、この様子では地上を進むよりは逃げられる可能性はあるか」

迷っていても仕方が無い。
カグヤが大々的に動いてしまったことで、ここにゼロがいる可能性が高いと、各国の人間が集まってきていた。それだけではなく、ゼロン正体を見たいという野次馬や、ゼロに恨みを持つ者達も集まってきている。

「ならば、お前たち二人で地下から逃げろ。あいつらは私が引きつける」
「何を言ってるんだC.C.」

スザクが反対の意志を示したが、C.C.は引かなかった。

「ゼロの顔が割れていない以上、万が一お前たち二人が見つかっても逃げる道はあるだろう?いくらカグヤでも正体が誰かを口にしているとは思えない。となれば、まさか死者が動き回っているとは誰も思っていないだろうさ。だが、私は違う。ゼロの愛人、ゼロの傍にいる女としてのイメージが強すぎるし、この顔を表に出しすぎていた。いくら変装したと言っても、私はまた気付かれる」

いや、気付かれたからこそ、こんな状況になったのだ。
ここに集まって来ている野次馬たちに紛れ逃げる手も考えたが、その場合もやはり顔が割れているC.C.がネックになる。ゼロの顔がわからない以上、ともにいるC.C.の顔写真が皆に配られ、彼女と共にいる人物を皆が探しているのだ。そう、先程C.C.が発見されたときに、言い訳をするでもなく逃げる道を選んだ以上、C.C.はゼロの傍に今もいるのだと、ゼロの目印なのだと彼らは認識したはずだ。
だから、C.C.は二人から離れる選択した。

「C.C.様・・」
「心配するな。盲目の足手まといがいなければ、私一人逃げることなど容易いさ。それに、ゼロらしい人物がいないとわかれば追っても来なくなるだろう?」

それに、いざとなればコードを使い、ショックイメージで相手を昏倒させることも出来る。一緒にいる時に使わないのは、手違いでショックイメージに巻き込んでしまった時に困るからだ。この童顔のくせに筋肉質な男を二人で運ぶ事になったら、その時点で終わりだろう。

「・・・落ち合う場所を決めよう」

駄目だと言いたいのだろうが、目の見えない自分が足を引っ張っていることを自覚しているため、スザクは驚くほどあっさりとC.C.の提案を受けた。
だが、無事に逃げた時、合流する場所は決めておきたいようだ。

「そうだな、では我々にとって馴染み深い場所にしよう」

魔女の笑みを浮かべ、冷たく話すC.C.は最悪の場所を指定した。
だが、今の自分たちが共通して知っている場所で、ゼロが逃げ込まないだろう場所、そして誰にも迷惑をかけずに落ち合える場所は少ない。

「では、私は行く」

まるでコンビニにでも行くような気軽さで、C.C.はその場を離れた。

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